*壮大なネタバレなんで、原作を読んでからにしてくれ。
イッキの成長ストーリーから一転、空の救済ストーリーとなった後半。
大暮さんの能力(思考力)が高すぎて、一般の読者を置き去りにした漫画。
抽象化できるとめちゃくちゃ面白い。
◾︎あらすじ
「エア・トレック」という「インラインスケートにモーターつけて、サスペンションつけた靴」を使ったバトルマンガ。
前、中、後期と分けて説明する。
⚫︎前期
エアトレックが「自由への道具」である時期。
中学生ヤンキーバトルで使われたり、主人公が少しずつ上手くなってく様を描く。
パーツウォウからのクラス別大会は、全てを通じて活かされる。
凝り固まった「壁」を破壊していく様子は痛快。
⚫︎中期
エアトレックに「意味」が背負わされる時期。
実は「軍事用の道具だった」とか、「エアトレック専用に作られた子供達がいた」とか、斜め上の設定で飛んで行く。
新しいマンガを見てるのか?っつーくらい設定が飛ぶ。
ここで、個人的には「主人公が交代した」と思う。
イッキは「作中の主人公」になり、「作者の主人公」は「空になった」。
⚫︎後期
大暮維人氏の「天才性が爆発」。
特に「ガゼル編以降」。
カイトとガゼルの恋愛のくだりはエアギアでトップの見せ場。
「その冬は珍しく寒かったが、俺たちには関係なかった」や「こいつに繋がれちまったのは俺かもしれない」は、個人的な名シーンの1つ。
とにかく、ここからの設定の作り方、細かさ、ロジックの通し方と見せ方は「必見」。
南博士は、まさしく大暮氏にしか作れないキャラ。
微妙に「エアトレックでどうエネルギー問題が解決するのか?」って部分が置き去りだが、それ以外は完璧。
からの「武内 空の救済物語」へ変更。
「99%の出来損ない」という「自分との葛藤と絶望」。
これは「実際の社会で辛酸を舐めた人は共感できる」部分。
俺の居場所は世界にはなく、救いもない。
せめて目的に向かって真っ直ぐに、ブレずに進む事で自分の価値を見出そうとするそれ。
梨花の愛を受けつつもそれを否定するくだりは「屈指の名シーンの1つ」。
絶望を進んできた出来損ないの自分が、愛する女と子供と一緒に家庭を持つことへの「抵抗」。
「今さら俺が?そんなん許されないだろう」という形。
これは「めちゃくちゃ共感できる」。
絶望に沈む時間が長いほど「幸せを受け入れられない」んだ。
今で言えば、目的のために好き勝手やって、自分の好きな事をするためだけに色々利用してきたのに、今さら自分だけ幸せに浸ってここから降りる訳にはいかない、という。
それを主人公が「もう降りていいんだ」と諭すのが、エアギア最終巻。
もうお前は頑張った。
それが尊重できない方法だったとしても、今そこにいる理由にはならない、と。
もういいんだ、という結論。
これで最終回。
◾︎総じて
個人的には「めちゃくちゃ面白かった」。
これは「一度絶望の淵に沈んだことがある」から。
面白く感じるポイントは2つ。
1、設定
ぶっ飛んでるけど、理に適ってる。
冨樫的な凄さ。
実際にある理論と、上手く誤魔化す部分を擦り合わせた設定は見所の1つ。
ぶっ飛びすぎてるのは「大暮氏の頭が良すぎる」から。
その発想の飛躍に一般人はついていけない。
連載当時は俺も付いて行けずに「つまんねえと思ってた」。
今、本を100冊くらい読んで、頭脳レベルが上がったからついていけるようになった。
とかく「設定」と「抽象化」が凄くて、ついていくのに苦労する。
当時のメイン読者層だった10〜20代じゃ理解できない。
今でも30代以降にオススメしたいマンガ。
2、空に感情移入できる事
子供から見たら「単なる魔王」なんだこれが。
ただ、「そこに至る過程の説明に共感できるかどうか?」が、このマンガの面白さを別つ。
ストレートに「学生→社会人」ってルートを通った人には想像できないだろう。
「その外側の苦悩」というのは。
一般のルートを外れ「出来損ない」と言われる立場に立ち、自分の価値を模索しなければならない気持ちを。
そこには認めてくれる人もいなければ、背中を押してくれる人もいない。
絶望の中で一歩前に踏み出し、やれる事は全部やって目的地にたどり着くしかない。
そこには仲間なんていないし、自分で全て決めていかなければならない。
悲壮な覚悟で前に進み、楽しみも希望も捨てて、目的に向かう。
頼れるのは「己が力のみ」。
そんな中、宿り木になってくれる女ができる。
こいつに繋がれて真っ当な道に踏み出して、まともに生きるのも悪くないか…と思いつつも、そしたら今までやってきた事はなんだったんだという葛藤。
全てを投げうって目的のために遂行してきたのに、ここで降りて幸せになる?
「もう手遅れじゃボケ」という絶望の深さ。
それを救いたい主人公と梨花。
最後に戦友だった「ツレ」からも「もう囚われなくていい。俺が持ってく」という「許し」を経て、長かった冒険が終わる。
絶望の殻を壊した「主人公」と、それに救われた「空」の物語。
堂々完結。
面白かった。
◾︎まとめ
見所は「ぶっ飛び方」「設定」「救済物語」。
時代背景もあろうが「感覚が若い」。
個人的に好きなのが「女に繋がれちまう感覚」。
「あ〜もうコイツのために真っ当に生きるか」って感覚。
昔は確かにあった。
こいつのためなら頑張れるし、遊びはもう終わりでいいかって感覚。
今は冷めちまってるな、と。
空が救われた瞬間はカタルシスすら感じる。
「今読むからこそ」面白かった。
当時読んでた人にこそオススメ。
感じ方が変わってるぞ。